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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)1551号 判決

原告 前田良秋

被告 高山真治 外一名

一、主  文

被告高山は原告に対し東京都荒川区南千住町六丁目七十七番地四所在の(1) 木造瓦葺平家建家屋一棟建坪十二坪、附属物置二坪(2) 木造トタン葺二階建一棟建坪十六坪二階二坪、附属物置三坪を収去して、其の敷地四十四坪一合三勺を明渡し、且昭和二十五年十月二十四日以降右土地明渡済みにいたるまで、一ケ月金四百五十三円六十五銭の割合による損害金を被告紺多は、同所同番地五所在の木造瓦葺平家建家屋一棟、建坪十三坪六合三勺を収去して、其の敷地二十七坪七合を明渡し、且昭和二十五年十月二十四日以降右土地明渡し済みにいたるまで、一ケ月金三百十七円十六銭の割合による損害金を支払うべし。

訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、其の請求原因として、

(一)  原告は昭和二十五年十月二十四日訴外望月治子から主文記載の各宅地を買受け、同日所有権移転登記を了した。(二) 然るに被告等は原告に対抗できる何等の権限がないのに、本件宅地上に各主文表示の通りの家屋を所有して原告の本件宅地を占有している。(三) 原告は被告等の本件宅地の不法占拠によつて、其の使用を妨げられ、其の相当賃料と同額の損害を蒙つている。仍て原告は右建物を収去して、其の敷地の明渡を求めると共に、原告が所有権を取得した昭和二十五年十月二十四日以降右宅地明渡し済みにいたるまで、主文記載の金額の賃料相当の損害金の支払いを求めるため、本訴請求に及んだと述べ、被告等の抗弁事実に対して、原告と訴外望月治子との続柄及び原告が肩書地に於て歯科医を開業している事実、訴外望月治子の居住する家屋の敷地と、本件宅地が地続きであることは認めるが、被告等と訴外酒井宗太郎との間に本件宅地につき賃貸借契約が存在し、原告が右賃貸人たる地位を承継することの合意が成立した事実はこれを否認する。仮に被告等が借地権を有するとしても、被告等はいずれも前記各その所有する家屋について保存登記を経ていないから、被告等は各その主張の借地権を以て新所有者である原告に対抗することはできない。それに被告等は、家屋台帳による建物の登録も経ていない。従つて、家屋税の納入もなしていないので、納税義務も果していないのに、権利濫用の主張も理由がない。なお被告等の望月治子と原告間の売買は仮装行為であるとの主張事実は否認すると述べ、被告紺多の罹災都市借地借家臨時処理法第十条に基く主張に対しては、同法第十条は、戦災により建物が罹災当時、其の敷地について、有効に賃借権を有していたもののみを保護するものであるから、罹災後借地権を特定承継したその新借地権者は、同条による保護を受けることはできないと述べた。<立証省略>

被告高山訴訟代理人は、原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因中(一)の事実は認めるが、訴外望月治子と原告間の売買は仮装行為であるから無効である。従て原告は本件土地の実質上の所有者でない。同(二)の事実中、被告が本件宅地上に原告主張の家屋を所有していることは認めるが其の余の事実は否認する、同(三)は否認すると述べ、抗弁として、被告高山は、本件宅地を元所有者訴外酒井宗太郎より建物所有の目的で、一ケ月賃料金二百円で賃借したものであるが、本件宅地の前所有者訴外望月治子が前記酒井より本件宅地を買受けた際右望月、酒井、被告高山の三者間において、前記望月は被告高山に前記酒井との右賃貸借契約上の地位を承継することの合意が成立し、ついで原告が前記望月より、本件宅地を買受けた際原告、被告高山、前記望月の三者間に、原告が右賃貸借契約上の地位を承継する旨の合意が成立した。仮に原告に於て、前記賃貸借契約を承継しないとしても、本件宅地は、原告の妻の姉である訴外望月治子の居住する家屋の地続きであつて、原告は常に望月家に出入りして居つて被告が、本件宅地を地主訴外酒井より賃借りして、建具商を営んでいることを熟知しており乍ら、被告高山が本件宅地の前記借地権の登記並本件家屋の登記がないことを確認の上右借地権が原告に対抗することのできないことを知つて故ら被告高山に対し本件宅地の明渡しを求めるものであるが、被告高山はこれによつて受ける精神的、経済的の損害は甚大である故、かかる事情の下において、原告が本件宅地の明渡しを求めるのは、明らかに信義に反するから右原告の所有権の行使は権利の濫用であつて、許されないと述べた。<立証省略>

被告紺多訴訟代理人は、被告高山と同趣旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因中(一)は不知、仮に訴外望月治子と原告間に本件土地について売買があつても仮装行為である故無効である。同(二)の事実中被告が本件宅地上に原告主張の家屋を所有していることは認めるがその余の事実並同(三)はいずれも否認する、と述べ、同被告は義兄である訴外東長作より本件宅地の賃借権の譲渡をうけたものであるが、訴外望月が本件宅地を買受けた際、訴外望月、同酒井、被告紺多の三者間に、訴外望月が前記賃貸借契約を承継することの合意が成立し、更に原告が前記望月より、本件宅地を買受けた際も前記賃貸借契約を承継する旨の合意が成立した、仮に右の事実がないとしても大正十二年四月以来、訴外東長作が本件宅地に家屋を所有して居り、昭和二十年三月の戦災によつて焼失したが、前記東長作は引続き、本件宅地を賃借りしていたものであるから、罹災都市借地借家臨時処理法第十条によつて、借地権の対抗力を有していたものであり、而して、被告は前記東より本件宅地の賃借権を譲受けたものであるから、同条によつて対抗力を有するものである。仮に以上の主張が理由なしとしても、原告の本件宅地の明渡の請求は、被告高山の主張する如く、所有権の濫用であつて、許されない。と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が主文表示の宅地四十四坪一合三勺を所有していることは被告高山の認めるところであり、且成立に争のない甲第二号証によれば同所宅地二十七坪七合の土地を原告が所有していることが認められる。被告等は右宅地に対する訴外望月治子と原告間の売買は仮装行為であると主張するけれども原告本人尋問の結果のみでは右の売買が仮装行為であると確認することができないし、その他に被告等の主張事実を肯認するに足る資料がないから被告等の右の主張は採用しない。

しかして被告等が原告主張の如く、右宅地にそれぞれ家屋を所有して、其の敷地を占有している事実は、本件各当事者間に争がない。

そこで、被告等の主張する抗争について考えてみるに、(一) 被告等は、本件宅地につき、前所有者との間に賃貸借契約が存在し、原告が本件宅地を買受けた際、右賃貸借契約を承継することの合意が成立したと主張するが、証人酒井宗太郎の証言並に被告等本人の尋問の結果、並に前記証言によつて真正に成立したと認められる乙第一号証、丙第二号証によれば、訴外酒井と、被告等との間に被告等主張の如く本件各宅地についてそれぞれ賃貸借契約が成立したことは認めることができるが、原告が右賃貸借を承継したことは本件に顕れた全ての証拠によるもこれを認めるに足る資料がないから、被告等の右抗弁は採用しない。(二) 次に被告紺多の罹災都市借地借家臨時処理法第十条に基く抗弁について判断するに、同条は建物が罹災により滅失し又は疎開建物が除却された当時から引続き賃借権を有していた「者」のみがその後右土地を譲受けた者に対しても、右の借地権を以て対抗しうるの趣旨であつて罹災によつて建物が滅失した当時存在していた借地権をその後特定承継によつて取得した者は、本条によつてその借地権を第三者に対抗することはできないものと解するを相当とするから、被告紺多の右抗弁は採用しない。(三) 次に被告等の権利濫用の主張について判断する。原告は本件宅地に借地権の登記がなく、且その所有する家屋についても保存登記がないのを確認し、原告が右宅地を買取れば法律上、被告等をして退去せしめうることができると判断して、これを買受けたものであることは原告の主張自体に徴して窺えるところである。しかし原告本人尋問の結果によると原告が現在歯科医業を営んでいるその肩書地の静岡県上川根村は湿気が多いため、胸部疾患を患つている原告には永住地としては不適当のため本件係争地で歯科医業を営み自分の一生涯の生活の本拠とする目的で本件宅地を買受けるに至つた事情を認定できる。従て原告が被告等に対し本件宅地の所有権に基いてその明渡を求めるのは自分には何の利益もないのに単に被告等を害するためのみで、右の権利を行使するわけでなく且前叙認定の事情に徴すれば原告の本件権利の行使は客観的見地から評価しても何等権利の濫用とみることはできないと考える。

もつとも証人望月慶一、同酒井宗太郎の各証言に徴すると原告が地主の酒井宗太郎から妻の実姉治子を経て本件宅地の所有権を取得する迄の仲介をした原告の岳父訴外望月慶一の行動には仔細にこれを検すると稍穏当ならざる所為の疑うべきものがある。しかし思うにかかる者の行為から建物を所有する借地権者を保護するために国は明治四十二年五月一日以降建物保護に関する法律を制定施行していることは晋く知られている通りである。しかして前掲乙第一号証丙第二号証並被告高山真治の本人尋問の結果によれば、被告等の本件宅地に関する借地権は昭和二十四年九月頃地主酒井宗太郎から確認されたのであるから成立に争のない甲第一、二号証によつて明かなように地主の訴外酒井宗太郎から訴外望月治子が本件宅地について所有権取得登記をなすに至つた昭和二十五年二月二十二日迄には相当の期間があつたのである故被告等は各その所有に係る本件宅地上の建物の登記をなして、右の借地権を原告に対抗しうる方法があつたにも拘らず、あえてこれをしなかつたのであるから原告から本訴の請求を受けるのも亦止むを得ないところと言わねばならない。

以上説明の通りである故被告等は各原告に対し主文表示の宅地をその地上建設の建物を収去してこれを明渡す義務があると同時に、前示甲第一、二号証並成立に争のない甲第十八号第十九号各証によつて各認めうる原告が各本件宅地の所有権を取得した昭和二十五年十月二十四日以降右宅地明渡済迄被告高山は一ケ月金四百五十三円六十五銭、被告紺多は一ケ月金三百十七円十六銭宛の地代に相当する金額の損害金を支払うべき義務があることは当然というべきである。

よつて原告の本訴請求を正当として認容し民事訴訟法第九十三条を適用し、原告の仮執行の宣言の申立は本件については相当でないと認めて却下し主文の通り判決する。

(裁判官 佐野英雄)

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